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自己(自家)移植 Auto-transplantation - 2009年01月17日

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どなたもご存じの心地よい“砂浜”、この砂浜は海とも陸地ともつかない、いわば両者の境界領域です。水と土、海と陸という全く異なる環境をつなぐものです。地域によっては断崖絶壁を介して海と陸が接する場所もありますが、このような所は波は荒く、風は強く、荒々しい環境となりやすく、人が住めるような穏やかな環境とはなりにくいものです。

体表の組織でも同じことがいえます。皮膚から粘膜へ、あるいはその逆でもいいのですが、境界領域といわれるエリアがあります。例えば、外耳道、眼瞼(アイラインの部分、まぶたと眼瞼結膜の境)、輪部(リンブ:角膜と白目[眼球結膜]の境)、鼻の入り口、唇、包皮粘膜、肛門といったところでしょう。

このような場所で手術を行う場合、本来の境界組織をうまく利用したり再建させる考え方が大事です。
今回は、アメリカンコッカースパニエルの子で、ひどい慢性の外耳炎の子の話ですが、長年の炎症や肥厚のため外耳道は閉じ、しかも外耳道全周囲がひどく骨化していました。もうこうなると内科的処置では治せません。

このような子に対して、垂直耳道全部と水平耳道の一部を切除せざるを得なかった訳ですが、耳の奥深くに残った水平耳道と頬の皮膚をつなぐ必要がありました。
無理に直接つないでも、皮膚の緊張で裂けたり、あるいはうまくいっても、発毛で再び耳道が塞がれたりするようではよくありません。

そのつなぎ目というか、境界部分にさて何を持ってこようかと色々と思案し、皮膚移植も考えましたが、最終的には、よりベターな方法として考えついたのが、この子自身の口腔粘膜を利用することでした。
手術はとても繊細で長時間かかりましたが、移植粘膜はうまく生着しました。耳からの分泌物もうまく排出することができてとてもうまく経過していると思います。

下の写真は、その子の横顔ですが、左は手術をした左側、右の写真は通常の右側の耳です。
 手術をした左耳                            通常の右耳
A3994 口腔粘膜-外耳道移植術B3994 通常の外耳道
 新しい耳道では自身の口腔粘膜を水平耳道と頬の
  皮膚のつなぎとして利用

 
このような境界領域の組織が必要だとする考え方で対処する手術として、代表的なものは、オス猫の尿閉に対する尿路再建術があります。ペニス部の包皮粘膜を生かし、術部の再癒着による尿閉やオシッコ焼けが起きないようにするために非常に有用な方法です。また、稀ですが、まぶたのアイラインの長さの1/3以上が欠損した場合に、目の保護を目的としたまぶたの再建術もあります。

いずれにしても自分の組織を利用しますので、組織適合性云々の話はなく生着しやすい手法ですね。でも移植時の組織の取り扱いには十分に注意しないと自己の組織とはいえ、生着に失敗する場合もあります。

ejima_ac at 14:00 コメント( 0 )  この記事をクリップ!

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